2024年4月20日土曜日

低い故障率など…夢の馬場オールウェザーは終わったのか?

■2019/07/26 芝・ダートを超える「夢の馬場」オールウェザーのワクワク感
■2019/07/26 低い故障率など…夢の馬場オールウェザーは終わったのか?
■2019/07/26 イギリスでは好評なオールウェザー、むしろ拡大傾向に
■2023/01/08 歴史あるイギリスのニューマーケット競馬場にもオールウェザー?


■2019/07/26 芝・ダートを超える「夢の馬場」オールウェザーのワクワク感

 いつオールウェザーを聞いたのか思い出せないのですけど、私はオールウェザーのニュースにワクワクしました。従来型のものではない新しいものを作るというのがまず好みですし、故障が少ないなどの様々なメリットがあるとされていました。今後オールウェザーはどんどんと増えるだろうとも言われていた気がします。
 Wikipediaによると、 芝・ダートのデメリット、そして、オールウェザーのメリットとしては、以下のようなところが考えられていました。

<芝> 使用しているうちに馬の蹄によって掘られて表面が荒れてしまい、競走馬の故障の原因となったり、見栄えも悪くなる。また、荒れた馬場を修復するためには多くの手間と費用がかかり、とりわけ低温な欧州の冬季には競馬の開催そのものが困難となる。

<ダート> 表面をならすだけで修復できるが、乾くと人馬の健康上の被害や環境面での影響が懸念されている砂埃が発生したり、雨が降ると水溜りができたり流れたりしてしまう。また、砂煙が発生しているところに西日が当たると視界が悪くなり、これも競走中の人馬に危険を及ぼす恐れも指摘されている。

<オールウェザー> 表面をならすのが容易でクッション性も高く、砂埃の発生が少なく、水はけもよいといった理想的なコンディションを維持できる馬場を開発しようとしたもの。

 上記では書いていませんけど、コンディションの維持が楽だというのは、ランニングコストの面でも大きいと思われます。
 また、上記のうち最大の問題は、故障率の問題でしょう。競走馬を死なせてしまうのは、誰にとってもデメリットとなります。 2011年に発表されたアメリカの調査によれば、過去2年間における延べ75万4,932頭の出走馬のうち、予後不良事故の発生は、ダート馬場で1,000頭につき2.14頭の割合であったのに対して、人工馬場では1.51頭の割合であり、有意に低くなっていました。


■2019/07/26 低い故障率など…夢の馬場オールウェザーは終わったのか?

  上記のようなダートのデメリットとオールウェザーのメリットにより、アメリカでは2000年代初頭から従来のダートに替わってオールウェザーの馬場で競走を行うべきだとする主張が有力になり、馬場の転換を図る競馬場が増加。オールウェザーの前途は明るいように見えました。

 ところが、2008年のメインレースのブリーダーズカップ・クラシックでは、当時のアメリカのダートの最強馬カーリンが凡走し、ダート経験がないレイヴンズパスとヘンリーザナビゲーターに上位を独占。これにより、アメリカ国内ではオールウェザーに対する反発が強まります。
 また、クッショントラックとプロライドという異なる素材を用いたサンタアニタ競馬場は水はけが悪く、開催が中止に追い込まれるケースが続発し、ダートに戻すことに。本来のメリットとされたところがデメリットになるという、全く正反対の結果に…。当然これはコスト的にも大問題です。このため、サンタアニタ競馬場以外の競馬場でもオールウェザーをやめるところが続出してしまいます。

 さらに、科学的な調査結果こそないものの、脚部の軟部組織の疾病の発症率が高いのではないかとする声もあり、依然としてオールウェザー馬場による競馬開催に懐疑が寄せられている、ともありました。
 ただし、最後のものは科学的な根拠がないと明言されていますので、重視しなくて良いでしょう。競馬以外の世界でもそうなのですが、信頼性が低いものと高いものをごっちゃにしてしまい、信頼性が低い主張をむしろ信じられて声高に主張される…ということがよくあります。ただ、科学的根拠があるものとないものでは、科学的根拠があるものの方が当然優先。専門家などによる意見ですら科学的根拠があるとはみなされず、調査や研究・論文がある場合は、そちらが優先されます。この場合、前述の故障率が低いという調査の方が信頼性が高そうです。

 ということで、最後のものは否定されましたが、他は問題があります。また、オールウェザーだと強い馬が変わるというのは、ドバイワールドカップでも問題になりました。
 オールウェザーだった時期に日本の馬が恩恵を受けた面もあったのですけど、オールウェザーを嫌ったアメリカ調教馬がドバイワールドカップへの出場を見合わせるようになり、2015年にダートに戻されています。
 オールウェザーはダートの 代わりといった感じの記述がWikipediaでは多いですけど、むしろ芝に近いのでは?と当時言われていた記憶もあります。日本の馬が恩恵をこうむったというのは、そういうところですね。芝馬のヴィクトワールピサが勝利するなどしています。
 ただ、北米のオールウェザーの成績を見ると、実際にはダート種牡馬とも芝種牡馬とも違うオールウェザー種牡馬とも言うべき馬が上位になっており、そうした意味でも問題がありました。


■2019/07/26 イギリスでは好評なオールウェザー、むしろ拡大傾向に

 ドバイワールドカップが変更になった2015年の時点で、オールウェザーはもう終わりという空気で残念に思っていました。ただ、今検索してみると、同じ2015年の時点で、英国初の“タペタ競馬場”が好評(イギリス)- (2015/01/20 公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナル)というニュースが出ていたんですよ。驚きました。

 ウォルヴァーハンプトン競馬場が英国で初めてタペタ馬場を採用して4ヶ月ということで、ここはそもそも2015年に新たに導入しています。飽くまで「この時点での反応」ではあるものの、ホースマン・ブックメーカー・賭事客の反応は間違いなく好意的だとのこと。
 良さとしては、「跳ね返りが少ない」というのがわかりやすいところ。また、「出走頭数が比較的多い」というのは説明がなかったものの、故障リスクが低いために陣営が選択しやすいということなのかもしれません。

 わかりづらかったのは、 「同じパターンのレース展開になることがほとんどない」「勝馬のオッズが高い」という評価。ただ、これもおそらく良い意味でしょう。
 現在までの感想としてタペタは芝の次に良い馬場であるとしていた、リーディングジョッキーのリチャード・ヒューズ騎手は、「どのような乗り方をしても不利がない」としていました。つまり、馬の実力を出し切れている公平な馬場だということです。追込が難しいコースとか、逆に前が止まりやすいコースとか普通はありますよね。あれは馬の本当の実力を出せていないとも考えられ、偏らないコースの方が良いコースなのです。

 関連して「勝馬のオッズが高い」のも、本来の実力を展開によって出せていなかった馬が出せているためかな?と思いました。とはいえ、これは前述の通り、単にオールウェザーの得意・不得意な馬がいるだけで、前走までの成績が当てにならないというデメリットの可能性もありますね。ああ、そういえば、「出走頭数が比較的多い」からオッズも高くなるといういたって単純な理由の可能性もあるのを忘れていました。

 この記事以外に、英国の2016年の競馬開催日程におけるオールウェザー競走の割合はさらに高くなるというニュースも見かけましたし、オールウェザーはまだ終わりではないようでした。


■2023/01/08 歴史あるイギリスのニューマーケット競馬場にもオールウェザー?

 久しぶりにオールウェザーについて検索しようと思いましたが、その前にWikipediaを確認。ほとんど情報の変更はなく、大きな変更としては、名牝のゼニヤッタがオールウェザーで強かったという話が追加されただけ。
 ただし、ゼニヤッタの場合はダートでもG1を勝っており、オールウェザー専用ではありません。どちらかと言うと、オールウェザーでもダートでも走れた…という例に近いかもしれません。

<オールウェザー馬場で行われた2009年のブリーダーズカップ・クラシックでは、ゼニヤッタが牝馬として同レース史上初の勝利を挙げた。一方、ダートコースで行われた2010年の同レースでは、同馬が競走生活で唯一の敗戦を喫し、同馬の連勝記録も19でストップした。同馬の戦績はオールウェザー馬場17戦17勝(内G1は11勝)、ダートコース3戦2勝(いずれもG1)であった>

 で、オールウェザーの検索結果の方ですが、イギリスでのオールウェザー拡大傾向は続いている感じ。なんとあの歴史あるニューマーケット競馬場にもオールウェザー馬場敷設計画が持ち上がっているといいます。

・ニューマーケットのオールウェザー馬場敷設計画が明らかに(イギリス)【開催・運営】 - 海外競馬情報(2022/04/21)【開催・運営】 | 公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナル
<ニューマーケットへの敷設が提案されているオールウェザー馬場のさらなる詳細が明らかになった。ローリーマイルコースの裏手に右回りコースを設置する計画が発表されたのだ>
<公開されている計画のなかで最も目を引いたのは、調教・競馬施設のレイアウトだった。右回りのオールウェザーコースには、ホームストレッチに6ハロン(約1200m)の引き込み線があり、バックストレッチには10ハロン(約2000m)の引き込み線がある。
 このオールウェザー馬場は、ローリーマイルコースの裏手の"サウスフィールズファーム"と呼ばれる調教用地に敷設される>
<このプロジェクトは2024年地方計画に取り入れられたとしても、実現するのは少なくとも4年後になるだろう>
https://www.jairs.jp/contents/w_news/2022/4/3.html

 調教師の反応を見ると、注目されているのは調教の方みたいです。サイモン・クリスフォード調教師はこの計画を賞賛しこう語った。「調教の観点からすると、このコンセプトは大きな可能性を秘めています。調教師はいっそう柔軟に対応できるようになり、さらに攻馬手の配置や作業の進め方に関してずっと効率的な調教方法がもたらされるでしょう」としているなど、調教についてのコメントが多いです。

 これを読んで逆に調教専用なの?と思ってしまったので、別記事も検索。この少し前に<ニューマーケットのオールウェザーコース構想が再浮上(イギリス)[開催・運営] - 海外競馬ニュース(2022/03/17)【開催・運営】 | 公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナル>という記事が出ていました。
 こちらを読むと、やはりレースもやるという理解で良いんだと思うんですけど…。

<このたびジョッキークラブは、英国の全競走馬のうち40%がいるこの街に、冬場の活動拠点をつくりだす新たな選択肢を提案したのだ>
<ニューマーケットの調教師たちからの最初の反応は案の定、好意的なものだった。しかし、英国が出走頭数の減少のために厳しいプレッシャーを受けている今、オールウェザーコースの導入をそもそも考えることについての見識を尋ねられることは間違いない。また、ケンプトンと同様にニューマーケットから多くの出走馬を集めている近くのチェルムスフォード競馬場の関係者も懸念をもってこのニュースを受けとめるだろう>
<リチャード・スペンサー調教師はこう語った。「ニューマーケットにオールウェザーコースを敷設するのは素晴らしいアイデアです。午後9時のレースのためにウォルヴァーハンプトン競馬場まで苦労して出かけ、昼夜関係なくこちらに戻ってくるようなことをしなくてもよくなりますね。その新しいコースで調教もできれば最高ですね。将来が楽しみです」>
https://www.jairs.jp/contents/newsprot/2022/10/2.html