2023年11月9日木曜日

サラブレッド生産頭数が減るほど日本競馬は弱くなる…本当か?

■2019/06/13 1万頭以上いたのに減り続けのサラブレッド、ついに増加に転じる?
■2019/06/13 血統が悪い売れ残りの馬がまさかの中央重賞勝利!
■2019/06/13 サラブレッド生産頭数が減るほど日本競馬は弱くなる…本当か?
■2022/10/07 馬の年次別生産頭数の変化は、急増・安定・急減・安定・増加
■2022/10/07 昔はアラブ系の方が多かった!合計頭数では見えないトレンドがある 

■2019/06/13 1万頭以上いたのに減り続けのサラブレッド、ついに増加に転じる?

 かつて1万頭以上いたサラブレッドですが、生産頭数は減り続け…というイメージ。例えば、株式会社ヒポファイル・ブラッドストックでは、「日本国内のサラブレッド生産頭数も、1万頭を超えていた1992年をピークに減少の一途を辿り、2015年には7000頭を下回る程まで減少してきました」と書いています。

  なので、私はてっきり今ならもっと減っているのだと思ったら、増えていてびっくり。2018年の生産頭数 - 軽種馬登録ニュース(2019/02/05)によると、2017年の生産頭数は7,088頭(サラブレッド7,081頭、サラブレッド系種1頭、アラブ1頭、アングロアラブ5頭)で前年と比べると162頭の増加となったそうです。

  単年度だけ増加といったものではなく、ここ数年地味に…ではあるものの増えているみたいですね。増加傾向が続くかどうかは別として、底を打った感じに見えます。

2022/10/07追記:その後も増えているみたいですね。日本軽種馬協会の年次別生産頭数というPDFによると、前回紹介した2017年の7,089頭(訂正されたのか以前の報道より1頭増加)の後、2018年は7,250頭、2019年は7,393頭、2020年は7,558頭、2021年は7,733頭と一貫して増加していました。
https://jbba.jp/data/pdf/sei.pdf


■2019/06/13 血統が悪い売れ残りの馬がまさかの中央重賞勝利!

 以上は今回紹介したい話の予備知識。前フリでした。とりあえず、昔はたくさんサラブレッドがいたとだけ覚えておいてください。

 紹介したかったというのは新しい話ではなく、1999年8月18日の新聞の切り抜き。おそらく北海道新聞だと思われます。「赤字の重圧 道営競馬明日はあるか」という連載の2回目で、生産に焦点を当てた回。タイトルは「リスク負い名馬輩出」なのですけど、加えて小さめの文字で「生産減なら中央に痛手」ともありました。私が問題視したいのがここなんです。

 この連載と同じ月の8月1日。道営競馬所属のエンゼルカロが中央の函館3歳S(当時の名称)で勝利。道営馬の中央重賞勝利は初めてという快挙です。
 馬主は当時55歳の白井民平さん。今回の話に関係ないんですけど、確か「借金王」みたいなあだ名もつけられた、地元門別町(当時)では有名な名物牧場主さんだったと思います。

 余計なことを書いたんですけど、記事に戻ります。エンゼルカロは血統が悪い売れ残りの馬で仕方なく自ら馬主になった馬でした。こういうパターンは多いですね。道営では生産者馬主が半数だといいます。


■2019/06/13 サラブレッド生産頭数が減るほど日本競馬は弱くなる…本当か?

 ただ、エンゼルカロが中央重賞を勝ったように、こうした血統が悪い地方馬が中央競馬を支えているというのが記事の主張。ピラミッドの底辺である地方競馬で走る馬が多いほど、ピラミッドの頂点である中央競馬のレベルも高くなるというのです。別の門別町の生産者の以下のような話を載せていました。

「 生産を減らせば、その分名馬が生まれなくなる」
「道営などの地方競馬が衰退し生産頭数が激減すれば、中央のレベルも低下してファンが離れ、日本の競馬界全体が崩壊しかねない」

 結果論になりますが、これは本当なのかどうかかなり怪しい話でした。前述の通り、サラブレッドの生産頭数は1992年より大きく減ったものの、日本競馬のレベルが下がったとは思えません。
 むしろ逆でしょう。記事の前年の1998年には、日本調教馬として初めてシーキングザパールがヨーロッパのG1競走を勝利。そして、今は日本の馬が海外G1を勝利するのは全く珍しくないところまでレベルが上がっています。

 当時の私は無邪気に生産者側に都合の良いこの主張を信じてしまったので、おそらく切り抜きを取っておいたのだと思うのですが、これは他の産業で考えるとおかしい説だとわかりやすかったですね。
 「小規模な零細事業者が減ると、国際的に通用するような大企業のレベルが下がる 」といった主張ですからね。よく考えると、そんなわけ、ねーだろ!という主張でした。

 北海道新聞が地元の生産者の側に立つのは理解できますし、私も零細生産牧場を気持ちとしては応援したいものの、彼らを特別に守る大義は残念ながらありませんね。


■2022/10/07 馬の年次別生産頭数の変化は、急増・安定・急減・安定・増加

 日本軽種馬協会の年次別生産頭数というPDFを見てみると、おもしろいです。このデータで最も古いのは1955年。戦争の影響で戦前もう少し多かった時期があった可能性がありますが、とりあえず、この1955年頃は今よりだいぶ少ないです。翌年がデータがある中では最低。減る年はありますが、全体としては急激に増加していたことがわかります。

年次    小計
1955    2,615
1956    1,954
1957    2,102
1958    2,439
1959    2,645
1960    3,019
1961    2,934
1962    3,070
1963    3,410
1964    4,010
1965    4,764
1966    5,101
1967    5,731
1968    6,245
1969    7,081
1970    8,051
1971    9,089
1972    9,671
1973    9,701
1974    11,030

 ところが、1974年からは突如増加傾向が終了。ただ、減少傾向ということもなく、1万1000前後で安定する…という安定期に入りました。

1974    11,030
1975    11,651
1976    11,901
1977    11,072
1978    10,695
1979    10,847
1980    11,077
1981    11,342
1982    11,571
1983    11,602
1984    11,341
1985    11,198
1986    10,834
1987    10,734
1988    11,041
1989    11,269
1990    11,751

 ピークは1992年であり、1990年代の前半は1万2000頭を超える数字を複数年で叩き出しました。

1991    12,560
1992    12,874
1993    12,591
1994    12,459

 そして、このピークから一転して下がり続ける…という時期に入ります。急減と言って良い感じで減っていますね。

1995    11,545
1996    11,271
1997    10,865
1998    10,241
1999    9,679
2000    9,378
2001    9,311
2002    9,052
2003    8,773
2004    8,369
2005    8,043
2006    7,695
2007    7,533
2008    7,378
2009    7,483
2010    7,130
2011    7,092
2012    6,837

 この減少傾向の底は2012年。その後は上がり下がりして傾向のない安定期に突入したかと思いましたが、2016年からは連続して前の年を上回る数字を出し続けており、上昇傾向がはっきりと見えています。

2012    6,837
2013    6,843
2014    6,904
2015    6,858
2016    6,907
2017    7,089
2018    7,250
2019    7,393
2020    7,558
2021    7,733


■2022/10/07 昔はアラブ系の方が多かった!合計頭数では見えないトレンドがある

 以上はサラブレッド系だけでなく、アラブ系を含めた数字でした。実を言うと、このサラブレッド系・アラブ系という細かいところを見ていくと、ガラッと印象が変わってくるんですよ。今では信じられない話でしょうが、以前はアラブ系の方がむしろ多くなっていました。

年次    サラ系    アラ系
1955    660    1,076    -416
1956    727    899    -172
1957    817    1,038    -221
1958    941    1,243    -302
1959    1,031    1,437    -406
1960    1,115    1,683    -568
1961    1,237    1,560    -323

 初めて逆転したのは1962年。ただし、それ以降もアラブ系の方が多い年がかなりあります。ここらへんは一進一退でした。ここは全体としては激増している時期であり、サラブレッド系、アラブ系ともに増えていたことがわかります。

年次    サラ系    アラ系 差

1962    1,491    1,449    42
1963    1,767    1,542    225
1964    2,013    1,873    140
1965    2,165    2,472    -307
1966    2,260    2,731    -471
1967    2,617    2,989    -372
1968    3,021    3,125    -104

 しかし、アラブ系の方が多かったのは1968年が最後。その後は全部サラブレッドの方が多い…ということになりました。
 また、このあたりからしばらくサラブレッドとアラブ系で増え方に大きな差が出ていたこともわかります。アラブ系が増えたり減ったりする中で、サラブレッド系は安定して伸びていました。

年次    サラ系    アラ系 差
1968    3,021    3,125    -104
1969    3,746    3,229    517
1970    4,389    3,561    828
1971    5,065    3,943    1122
1972    5,595    4,009    1586
1973    6,173    3,501    2672
1974    7,297    3,715    3582
1975    8,113    3,534    4579
1976    8,470    3,427    5043

 全体としては1974年から1990年は安定期。サラブレッド系とアラブ系の割合も、1977年から1985年あたりだけは大きなトレンドがなく安定していました。

年次    サラ系    アラ系 差
1977    7,968    3,102    4866
1978    7,780    2,914    4866
1979    7,712    3,134    4578
1980    7,726    3,350    4376
1981    7,867    3,475    4392
1982    8,072    3,498    4574
1983    7,977    3,625    4352
1984    7,694    3,647    4047
1985    7,629    3,569    4060

 ただ、1986年からは全体の頭数が変わらない中で、サラブレッドが増えてアラブ系が減るという比率の変化が起きています。

年次    サラ系    アラ系 差
1986    7,649    3,185    4464
1987    7,765    2,969    4796
1988    8,311    2,730    5581
1989    8,751    2,518    6233
1990    9,319    2,432    6887

 その後ピークの時期を過ぎて全体の減少傾向に入ってくると、アラブ系とサラブレッド系の差はでこぼことした感じに。サラブレッドがアラブ系以上に減る…といったことが起きています。
 ただし、アラブ系の復活というわけではなく、全体に苦しい時期であるため。アラブ系自体は減少トレンドがはっきりしています。

年次    サラ系    アラ系 差
1991    10,054    2,506    7548
1992    10,407    2,467    7940
1993    10,188    2,403    7785
1994    9,987    2,472    7515
1995    9,212    2,333    6879
1996    9,045    2,226    6819
1997    8,668    2,197    6471
1998    8,493    1,748    6745
1999    8,527    1,152    7375

 アラブ系が1000頭を切ってしまうあたりになると、もう差を見てもしかないな…という感じに。もうほとんどがサラブレッド系ですし、サラ系すらほぼいなくなって、ほぼ全部純粋なサラブレッドのみという状態に。アラブ系はそろそろ0になりそうです。

年次    サラ系    アラ系
2000    8,622    756
2001    8,807    504
2002    8,747    305
2003    8,554    219
2004    8,261    108
2005    7,981    62
2006    7,669    26
2007    7,523    10
2008    7,370    8
2009    7,474    9
2010    7,120    10
2011    7,076    16
2012    6,828    9
2013    6,836    7
2014    6,888    16
2015    6,848    10
2016    6,906    1
2017    7,083    6
2018    7,244    6
2019    7,390    3
2020    7,553    5
2021    7,730    3