2024年7月5日金曜日

実は多いノド鳴りの馬、競争能力とは無関係?喘鳴症・喉頭片麻痺の説明

■2020/03/26 実は多いノド鳴りの馬、競争能力とは無関係?喘鳴症・喉頭片麻痺の説明
■2023/03/10 ノド鳴りは競走能力と関係ある…騎手など今でも信じている人は多い

■2020/03/26 実は多いノド鳴りの馬、競争能力とは無関係?喘鳴症・喉頭片麻痺の説明

  私が読んだ記事では、ノド鳴りと喘鳴症を同じものとして扱っていました。そして、運動中にヒューヒューという高い異常呼吸音を発する喘鳴症の代表的なものとしては、喉頭片麻痺というものがあるそうです。
  下村優樹獣医師によると、喉は軟口蓋と喉頭蓋、そして披裂軟骨の3つの部位で成り立ちます。軟口蓋の上に喉頭蓋がペロッと乗っかっていて、さらにその上に披裂軟骨があります。この一番上の披裂軟骨の開閉する動きが悪くなることが、主なヒューヒューの原因だそうです。
 このノド鳴りの代表格「喉頭片麻痺」には、進行度によってG1(グレード1)からG4 まであります。ただ、G1が「正常」で、問題なく開いたり閉じたりができる状態だとのことですから、たぶん残りがノド鳴りなんでしょうね。重賞の格付けのG~と異なり、数字が大きいほど重症であり、G4が最も程度が進行した状態だそうです。

 さて、ここからが驚くべき話。 ダイワメジャーやハーツクライがノド鳴りになって、ヒューヒューと音がしたというコメントを読んだことがあるとインタビューアーが聞いたところからです。これらの名馬もノド鳴りが進行した状態だと下村優樹獣医師は判断していました。
 ところが、ノド鳴りだからといって、能力を出せていない…とは限らないようなのです。なんと若馬の14%以上がG2以上の所見を有しているとの報告があるということ。喉頭片麻痺は正常に戻るということはなく、むしろ悪化するケースが見られるため、高齢馬ではさらに悪いかもしれません。
 ただ、一方でG3までは競走能力には影響がないと調査研究では報告されているのだそうです。ノド鳴りの馬は多い上に、多くのケースでは競争能力には問題がないという結論でした。
  さらに過去には、牧場の方が売らずに自分で走らせたG4の馬で、症状がまったく出なかったというケースもあるとのこと。最も悪い状態であるG4ですらこれですから、実際の競走能力に影響が出るかどうかは、かなりの差があり、一概には言えないんだそうです。
(【馬体の見かた講座】43.下村獣医師に聞く3[ノドの病気] :: 一口馬主DBより)

 ということで、ノド鳴りと競争能力は全くの無関係とは言えないものの、関係がないケースも多いんですね。もっと致命的なものだと思っていたので、驚きました。
 これはたぶん私だけの思い違いではないと思われます。というのも、上記を調べたきっかけは、応援している馬の掲示板で「ノド鳴りだから今回は負けても仕方ないよね。参考外」といったものを読んだため。皆さん誤解されているのだと思われます。
 ただ、今回の話を知ったせいで、「ノド鳴りで影響がないケースも多いために、ノド鳴りを言い訳にできず単に馬が弱かっただけ…」という可能性が出てきてしまいました。うーん、残念です。

■2023/03/10 ノド鳴りは競走能力と関係ある…騎手など今でも信じている人は多い

 前回書いたように、下村優樹獣医師が実際に個別のケースを見たところ、「ノド鳴りが競走能力と関係ある」は不正確で正しくはない模様。まどろっこしい言い方にはなってしまいますが、「ノド鳴りが競走能力に悪影響を与えるケースは確かにあるが、全く影響を与えていないケースもあり、一概には言えない」と言うのが正しそうです。

 ただし、これは下村優樹獣医師の見解であり、「ノド鳴りは競走能力と関係ある」という理解が一般的なのでしょう。騎手の田辺裕信さんも「ノド鳴りは競走能力と関係ある」と理解していることがわかる、以下のようなコラムがありました。大昔のコラムということはなく、前述の下村優樹獣医師の話より後に書かれたコラムのようです。

【田辺裕信】馬もせきや喉鳴りは要注意(2020年09月24日)

<新型コロナの影響で周りでせきをする人がいると気になってしまいますが、馬もせきをします。調教で軽めのキャンターをしているときなどに、せきをしている馬はいますが、そういう馬は出走できないので、レース中にせきをしている馬はまずいないかなぁ。せきが出るとやはり呼吸のリズムが崩れますので、走っているときにせきが出ると息苦しさを感じます。
 息苦しさということで言えば、競走能力に影響を及ぼすといわれるのが喉鳴り。原因、症状についても喉の弁がまひして音が出るなど、さまざまです>
https://news.netkeiba.com/?pid=tarekomi_view&no=11473

 <手術をしてGIレースを制した馬もいますので、以前ほど深刻ではないかもしれません>とも書いていましたが、飽くまで「手術をすれば」という話。以下のようなもっともらしい話もあり、「ノド鳴りが競走能力と関係あって当然」といった感じになっています。

<馬は鼻でしか呼吸をしません。その鼻と直結しているのが喉。目立たないですけど、呼吸にとって喉はとても重要な役割を果たしているわけですよね。いくら馬体が良くても、筋肉が良くても、そして血統が良くても、酸素を十分に取り込むことができなければ能力を発揮することはできません>

 ここらへんの理解は一応前回の話とも矛盾しない可能性があります。
 前回の話では、ノド鳴りと診断されているのに競走能力に無関係だった例として、最も悪い状態であるG4の馬で「症状がまったく出なかったというケースもある」というケースが出てきました。逆に言えば、症状が出ればやはり競走能力に関係すると考えて良いのでしょう。
 おそらく騎手など、専門家以外がわかるノド鳴りの判断は「症状が出るかどうか」なので、この症状の有無を基準とした「ノド鳴りは競走能力と関係ある」という理解が依然として「正しい」可能性はあると思われます。
 一方で、獣医師のような専門家が披裂軟骨の開閉する動きを判断してわかる「喉頭片麻痺」があっても、症状が出るとは限らない…といった感じで、両方の理解が併存する余地はありそう…。
 いずれにせよ、まだまだわからないことが多い病気みたいですね。