■2020/06/04 競走馬の寄生虫、実は珍しくない!何割が寄生?
■2024/07/18 博士「馬に寄生虫はいて当然。むしろ根絶させようとするな」
■2020/06/04 競走馬の寄生虫、実は珍しくない!何割が寄生?
POG馬で後に皐月賞4着と健闘したウインカーネリアンは、3歳の1月に体内に虫が発見されたことがあります。
これについて掲示板では、「体内に虫もいたって・・・鉾田(引用者注:ビッグレッドファーム鉾田トレーニングセンター)の管理どないなってるねん・・・」といった反応が出ていました。ただ、体内の虫と管理は関係するんだろうか?と不思議に思ったんですよね。
なにか参考になるものはないか?と探して、PDF馬の寄生虫病(中央畜産会)というのを発見して読んでみました。
これによると、そもそも虫の寄生率は高いとのことで別に珍しくないようです。1982年から10年間の調査の場合、当歳馬では30%、育成馬では60%、繁殖牝馬ではなんと74.2%になんらかの虫が寄生していたそうです。
また、1980年からの12年間で、臨床的に寄生虫障害が出ていなかった安楽死馬450例を調べたケースでは、寄生虫障害が出ていなかったにもかかわらず、実は67.1%も虫がいたという同じくらいの数字が出ています。ただし、これはその前の10年と比べると減少。今はもっと減っているかもしれません。また、競走馬の場合は上記とは逆に若い馬で寄生が多く、主に牧場などでの寄生が原因であることが予想できます。
これを見ると寄生しているのが普通のようで、一部の施設の馬だけが虫に寄生するというわけではなさげですね。
ただし、寄生しても問題ないとは書かれていません。わかりづらいだけで障害がないわけではないとのこと。貧血や下痢、食欲不振などが考えられるため、競争能力にも問題があるとされていました。
また、感染防止は可能なのかどうかも気になるところ。 で、結論としては、感染防止策がありますので、一応、施設による寄生率の差が出る可能性はあるようです。短くまとめると以下のような感じでした。
(1)放牧地の耕作や客土で虫や卵を排除。
(2)他の馬からの感染機会を避けるため、過密な放牧を避ける。
(3)馬糞は散乱しないうちに速やかに除去。
(4)馬糞は堆肥としてよく発酵・発熱・熟成させて、虫や卵を殺滅してからまく。
(5)反芻動物との交互・混合放牧が、感染幼虫の除去に有効。
(6)放牧地を4ヶ月以上休牧する。
(7)中間宿主となる蚊やダニを撲滅するため、周囲の環境衛生に注意する。
■2024/07/18 博士「馬に寄生虫はいて当然。むしろ根絶させようとするな」
馬の寄生虫の話をもう少し…と検索。<馬の資料室(日高育成牧場): 日本ウマ科学会招待講演『根拠に基づくウマの寄生虫コントロール』>(2022年2月 3日 (木))という良さそうなページがヒットしました。2021年12月のウマ科学会学術集会に関する話みたいですね。
< 講師は、米国ケンタッキー大学のグラック馬研究所で寄生虫について研究や指導を行っているマーティン・ニールセン博士。日本語訳されている「馬の寄生虫対策ハンドブック」の著者であり、アメリカ馬臨床獣医師協会(AAEP)の「寄生虫対策ガイドライン」の策定においても大きな役割を担っている現代の馬寄生虫対策のパイオニアです。>
https://blog.jra.jp/shiryoushitsu/2022/02/post-8edd.html
現代における寄生虫対策の目標は、寄生虫を根絶するのではなく、悪影響を抑えて病気を予防することだとのこと。そもそも寄生虫をなくそうとする発想はダメなようです。根絶を目指すと、薬剤耐性を持つ寄生虫ばかり残るためというのが理由でした。
<過去、寄生虫の根絶が試みられ積極的な駆虫が世界的に推奨されましたが、薬剤耐性を持つ寄生虫が残るという結果を招いてしまいました。様々な事情により新しい駆虫薬の発見・開発が期待できない現状において、馬が飼養されている環境が薬剤耐性虫で溢れないように、将来を見据えた寄生虫対策が求められています。>
幸い重症化リスクは低いそうですけど、小円虫は、重度の感染では大腸全体の出血や炎症の原因になります。この小円虫は、採食される牧草と一緒に消化管内に入ります。このためか、感染率が高く、すでに耐性虫が確認されているため単純に駆虫薬の投与回数を増やしても完全に排除できないとのこと。イベルメクチンと駆虫薬を投与することで、感染リスクを減らす対策を行うべきだそうです。
ニールセン先生は、この他、対象の寄生虫によって、寄生虫の排除が可能なものは排除し、不可能なものは、馬の腸閉塞の予防・馬の症状軽減で対策するように勧められていました。
「寄生虫は、馬たちを殺すどころか病気にしてしまうことも稀で、馬に寄生虫がいるのは当然。寄生虫がいたとしても幸せに生きている。」ともおっしゃっており、「馬に寄生虫が見つかるのは異常」という認識ではないようです。