2024年8月29日木曜日

多度大社「上げ馬神事」は動物虐待?デマの一方で事実も

■2023/05/17 多度大社「上げ馬神事」は動物虐待?デマの一方で事実も


■2023/05/17 多度大社「上げ馬神事」は動物虐待?デマの一方で事実も

 若者が馬に乗り急な坂道を一気に駆け上がる、三重県桑名市の多度大社の伝統行事「上げ馬神事」。しかし、SNS上では「動物虐待ではないか」といった意見が多数書き込まれ、神事の様子を紹介した市のツイートなどが“炎上”状態になったそうです。
 ツイッターではこれに関連して「デマ」も拡散。一方で、「上げ馬神事」に不利な「事実」もあるみたいですね。

 とりあえず、多度大社「上げ馬神事」に好意的で、炎上火消し的な記事である<“動物虐待”と炎上「上げ馬神事」ネット情報の真偽は?>(- まるっと!みえ - NHK(津放送局 周防則志))から紹介。
 まず「上げ馬神事」については、<「上げ馬神事」は680年以上前の南北朝時代から行われているとされる伝統の神事。若者が馬に乗って急な坂を駆け上がり、頂上にある壁を乗り越えた回数で農作物の作柄などを占います。>と説明されています。その後、デマと事実についてそれぞれ判定していました。
https://www.nhk.jp/p/ts/2W7WM664QP/blog/bl/p49ydrXMn4/bp/pyv7m7r6dK/

【事実】「参加した馬が安楽死」
<神社などによると、5月4日の神事に参加した馬のうち1頭が、駆け上がる壁の手前、坂道を走っている途中でつまづき、足を骨折。会場に待機していた獣医師が状態を確認し、安楽死させる判断になったといいます>

【デマ】「見せ場を作るために近年、坂を登らせるようになった」
「神社に伝わる、寛政6年、江戸時代後期の「大祭御神事規式簿」という文書の中で、すでに『坂をのぼって馬が駆け上がる』という形で神事が行われていたことが確認できます」
<南北朝時代から続くとされる「上げ馬神事」ですが、資料の焼失などで一時、中断した時期がありました。それを、初代の桑名藩主となった徳川家康の重臣、本多忠勝が復興させたという記述もこの文書で確認できます。
 南北朝時代や忠勝の時代がどのような形だったかは別にして、少なくとも江戸時代後半には今の形になっていたとは言えそうです>

【不正確】「引退馬を安く買い取り使用」
<多度大社によると、馬は引退馬の場合もあれば、地域の人が趣味で飼っている馬を提供してもらう場合もあるということですが、いずれも買うのではなく、馬主から借りるという形で神事に参加しているとのこと。>


 NHKでは取り上げられていませんでしたが、「馬を死に至らしめることを目的とした神事」という批判もあったようです。ただ、これもデマに近い感じ。死亡する馬はそれほど多くなく、NHKによれば、今回の<18頭の馬のうち、安楽死させた1頭を除いた17頭には大きなけがはなく、神事の翌日の6日に馬主に返され>ています。
 また、「馬を死に至らしめることを目的とした神事」という話があったのは、炎上した三重・桑名市の米販売店に関する以下の記事であり、こちらでも「この20年一度も店主の参画する団体では祭馬の予後不良は発生しておらず」としていました。

・「上げ馬神事」投稿で批判殺到の米販売店が謝罪 出走の馬が予後不良で安楽死「重く受け止め」(5/13(土) 13:43配信 スポニチアネックス)
「上げ馬神事には毎年18頭の祭馬が上げ馬に挑みますが、その中の1頭の共同馬主として弊社店主が参画しております。神事が祭馬に与える危険性は認知をしながらも、この20年一度も店主の参画する団体では祭馬の予後不良は発生しておらず、危険性の認識が大きく一般の認識と齟齬をきたしておりました事を今回のテイクワン号の事故により痛感し、反省をしております」
「一部ご質問があるような、馬を死に至らしめることを目的とした神事ではなく、また馬主もそのような事を当然という意識は全くございません」
https://news.yahoo.co.jp/articles/6a7008ff316704ede62e9255fa259d3e7439bac4


 ここから再びNHK記事に戻ります。NHK記事によると、そもそも以前から動物虐待という声はありましたし、過去には明らかな暴力行為もあったそうです。

<そもそも「坂を登らせ、壁を越えさせること自体が動物虐待だ」という指摘も多く見られました。
実は、「上げ馬神事」に対して“動物虐待”を指摘する声は以前から上がっていました。
三重県は、坂を上らせること自体が虐待かどうかは別にして、神事の中で過去に実際に馬をたたいたり蹴ったりしたことがあったため、馬の取り扱いについて暴力行為をしないよう指摘してきた経緯があると話します>

 NHK記事は、最後の方で「伝統的な行事だからといって、動物虐待は決して許されません」としていました。しかし、実を言うと、NHK記事が「上げ馬神事」擁護じゃないか?と感じてしまったところのひとつが上記の部分だったんですよ。私はこの書き方だと暴力行為はだいぶ昔の話だと思ったのですが、なんとこれは2009年という比較的最近の話。2009年は平成21年ですから、昭和どころか平成です。
 ウィキペディアによると、以下のように馬に対して殴る蹴るの暴行を加えており、内容的にも極めて悪質。かなり暴力的な「伝統」があったのかもしれません。

<2009年に行われた上げ馬神事において、神事を運営する地元の団体が、本番前に馬を興奮させる目的で、馬の腹部などを蹴ったり殴打したりしていたことが、津市内の動物愛護団体からの告発によって明らかになり、三重県警が動物愛護法違反の容疑で、団体に所属する桑名市内の住民ら5名を書類送検した。上げ馬神事は、動物虐待に当たるとの指摘が以前から多数出ており、三重県教育委員会から馬の扱いの改善と安全性の確保に努めるよう、多度大社に勧告を行った>
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E5%BA%A6%E5%A4%A7%E7%A4%BE

 上記の中の「本番前に馬を興奮させる目的」はポイントのひとつ。NHKは取り上げていなかったものの、「そもそも坂を登らせ、壁を越えさせることが馬の習性に反しており、動物虐待ではないか?」といった批判が出ていたんですよ。
 この点についてはNHK記事で検証されておらず、真偽は不明。ただ、わざわざ「本番前に馬を興奮させる目的」で暴行を行っていたと聞くと、「馬の習性に反する」という説に説得力を感じさせてしまっています。

 さらにもう一つ、NHKが取り上げていなかった重要な批判が、この関連でありました。「身体の構造が日本の在来馬と異なるサラブレッドには、日本の在来馬以上に無理がある危険な行為ではないか?」という批判です。
 これも結局真偽不明であり、批判が正しいとは言えないのですけど、NHKが重要な批判を取り上げなかったためにすっきりしない感じに…。反論しやすいところだけ取り上げて擁護し、重要な批判から話題そらしを行った事実上の多度大社「上げ馬神事」擁護記事みたいになってしまいましたね。


 最初以上で終わっていましたが、もう一つ記事を見繕っていたのを忘れていました。<三重の「上げ馬神事」は動物虐待? 維新議員が国会で指摘>(カナロコ  神奈川新聞 | 2023年5月16日)という記事です。
 右派の議員の方が「日本の伝統を守るべき!」と言いそうなものなのですので、右派である日本維新の会の議員がこの「伝統」行事に批判的なのは意外。右派の人は動物愛護が嫌いな人が多いイメージもあり、その点でも意外です。
 ただし、自民党の野村哲郎農水相はこの質問に「無回答」という誠意のない対応で済ましており、こちらは見事に右派のイメージ通りとなっています。

<三重県桑名市の多度大社の「上げ馬神事」について、「馬への虐待に当たる」との批判が高まり、国会でも取り上げられた。今月行われた神事では1頭が骨折したため安楽死となっており、日本維新の会の串田誠一氏(参院全国比例、神奈川県連所属)は16日の参院農林水産委員会で「事故が起きるのは誰が見ても分かる。国が指導してほしい」と求めた>
<壁を乗り越えられずに逆さまに転倒した馬や、足を骨折した馬の様子がSNSで拡散されて批判の声が上がっていることを踏まえ、串田氏は「完全に動物愛護法に反する行為」と指摘したが、野村哲郎農水相は「個別の伝統行事の内容をコメントすることは難しい」と述べるにとどめた>
https://www.kanaloco.jp/news/government/article-989808.html