■2018/07/23 アイルランドの調教師はお金がなくなって辞めることが多い
■2018/07/28 「欧米では」は嘘、アメリカと欧州では競馬が全然違う
■2018/07/28 馬を丁寧に世話するアメリカと短時間で済ませるアイルランド
■2018/09/02 レース当日まで昼夜放牧していてG1出走で勝っちゃうアイルランド
■2018/10/27 海外の調教師は儲からない…金持ちの道楽で遺産食い潰しておしまい
■2020/12/19 当歳セールが盛んな日本は異常…など海外競馬との違い
■2018/07/23 アイルランドの競馬が自由すぎる 調教コースに羊の群れやウサギ
Enjoy Ruffian 2010年4月号シャムロックの草原で、アイルランドの調教師の児玉敬さんは、カラ調教場について、以下のような説明をしていました。
"アイルランドダービーを始めアイルランドのすべてのクラッシックレースがおこなわれるカラ競馬場を中心にした広大な敷地に2000mポリトラック坂路、1800mウッドチップ坂路中心に5本のアップヒルコース、1800mファイバーサンドトラックなど4本の周回コース、地平線に向かって伸びるような直線最長2400mのコースを始めとした無数のグラス坂路コース、そして大きく1周すると5000mにもなる広大な草原調教場など素晴らしい施設を持つ公共の大調教場です"
こう書くと素晴らしく管理された調教場っぽいのですけど、最後の「広大な草原調教場」というのが真にアイルランドっぽいところ。わりとカオスというか、自由なんですよ。別の号なんか読んでも、これはアイルランド人の気質っぽいですね。
調教コースを羊の群れが平気で横切り、無数の野ウサギ達が飛び回る、ニジマス釣りを楽しむ人達の横で調教に疲れた脚を川面に落として休息を取る馬達がいるような光景を目にすることができるそんな自然な環境が、このカラ調教場の最大の個性だと、児玉敬さんは、書いていました。すごいですよね。
■2018/07/23 アイルランドの調教師はお金がなくなって辞めることが多い
あと、アイルランドでは、調教師は儲からない仕事。児玉敬さん自身、一度数シーズン調教師をやってから休業しているように、お金がなくなってやめる調教師が多いとのこと。かなり休業している調教師は多いみたいですね。
今回の厩舎再開を報告した児玉敬さんの亡き師匠Con Collins師の奥さんも、以下のように呆れていたそうな。
「タカシ、あんたはもうちょっと頭がいい子だと思ってたわ。あんたもConと一緒。勝てないこと、故障、事故、お金の苦労、あんなに頭を抱えて苦しんだこともすぐ忘れちゃうんだから。Conはさすが俺の弟子だって喜ぶでしょうが、あんたの家族を思うとやっぱり辛いわ」
ただ、調教師の状況は日本がむしろ特殊。海外では調教師だけが調教できるのが普通ということはないですし、参入障壁の高さや優遇措置なども日本が独特だったはず。飼い葉代が異常に高いのも、そういった弊害の現れではないかとも言われています。
だからといって生活できないのも困るんですけど、これは賞金額の影響が大きいでしょう。極端に変えなくとも、日本は多少見直しが必要だと思われます。
■2018/07/28 「欧米では」の嘘、アメリカと欧州では競馬が全然違う
児玉敬調教師は、アイルランドの前に、アメリカのサンタアニタ競馬場で2年あまり修行した経験もあります。そのため、アイルランドも好きだけど、アメリカも好きみたいですね。
そして、日本ではよく「欧米では」とひとからげにして扱うものの、違いがあることもわかっています。Enjoy Ruffian 2009年12月号シャムロックの草原を読むと、当事者であるアイルランド人は、日本で一緒くたにされていることは、さぞかし心外ではないかと思いました。生来の口の悪さと強すぎる愛国心のためか、アメリカの競馬を ボロクソに言っているようです。
児玉敬調教師は、アメリカ競馬の印象について、アイルランドの競馬にはない洗練された雰囲気があるとしていました。初めて渡った海外であるそのサンタアニタの厩舎で見た、1頭1頭に徹底して行われていた非常にきめ細かい馬へのケアに渡米当初は感動すら覚えたほどだとしていました。
おもしろかったのが、サンタアニタで新しく設置された派手な黄色のゴミ箱の話。この奇妙なゴミ箱に馬たちは皆一様に物見。馬場入りに支障をきたしていたといいます。日本人的な発想なら 「ゴミ箱を撤去」だと、児玉敬調教師は考えました。しかし、アメリカでは違いました。
分刻みで調教スケジュールが決められているにもかかわらず、それぞれの乗り手はゆっくり馬達にゴミ箱を見せ馬達が納得させるまで時間をかけていたといいます。児玉敬調教師は非常に感心しました。
ただ、この話をアイルランド人にしたら、「じゃあデビュー戦の競馬場で初めて大スクリーンやスポンサーの看板、頭の3倍もあるヒラヒラした帽子をかぶってる女の子達を馬が目にして物見した時はどうすんだ?」などと ボロっクソに言われます。
そして、調教を始める前に、乗り手の指示に即座に応えられる関係を作ってないから悪い、と力説。一理ありますし、理想論としてはそうなのですけど、難しいですよね。
■2018/07/28 馬を丁寧に世話するアメリカと短時間で済ませるアイルランド
また、サンタアニタでは、馬との信頼関係を作るために、非常に長く丁寧に馬を手入れするそうです。
ところが、これをアイルランドでやったところ、「お前、何やってんだ!早く馬房を出ろ。いつまでも馬とだらだら一緒にいるんじゃない。20分だ。馬房掃除、手入れ、全部で
20分だ!それ以上馬にかかわるな!」と怒られました。
これは、馬にとってはむしろストレスなので、接触は最低限 にしろってことみたいですね。それより放牧地に引き出して草でも食わしてやった方が幸せなはずだだという理由もあります。
さらに驚くのは、24時間放牧を続けるアイルランドの牧場では、餌も与えない時期すらあるということ。自然が最も優れているといった思想みたいですね。ただ、これは科学的根拠に欠ける考え方。
また、さっきの馬にとってのストレスうんぬんも証明する必要があるでしょう。Enjoy
Ruffianの別の号のスタッフの編集後記では、日本のトレーニングセンターには、馬のマッサージ師が出入りしているという話が書かれていました。これだけ聞くと、これまた非科学的な感じがするものの、人間のようにマッサージを受けながら寝てしまう馬もいるとのことで、これを聞くと効果があるのかなとも思います。ともかく人間の世話を好んでいるかどうかは、きちんとよく調べる必要があるでしょう。
まあ、それはともかく、アイルランドとアメリカでは、こんなに違うよというおもしろい話でした。
■2018/09/02 レース当日まで昼夜放牧していてG1出走で勝っちゃうアイルランド
ちょうどこの上の自然に任せるという思想に関連するアイルランドの話。今回はいつもの児玉敬調教師ではなく、Enjoy Ruffian 2011年6月号に載っていた斎藤誠厩舎中馬恭嗣調教厩務員の話です。
中馬さんは、競馬学校厩務員過程に合格することができたものの、すぐには所属が決まりませんでした。その期間を見て、アイルランドに修業へ行くことに。
しかし、きちんとしたコネがあったわけではなく、以前アイルランドに行っていた知り合いが、そのとき世話になった調教師に『こういう人が行くのでよろしく』と連絡をしておいてもらった、それだけだといいます。えらくいい加減ですけど、受け入れるアイルランド側もいい加減です。
しかも、この厩舎が弱小厩舎じゃありません。デビッド・ウォッチマン厩舎という、クールモアグループがアイルランドで馬を預けるときに使う厩舎のうちのひとつというものすごいところでした。
中馬さんが、日本との最大の違いとしていたのは、どんな馬でもおとなしくて、落ち着いていること。「人と馬との結びつきが強い」のではないかとしていました。
で、この後の「日本の常識ではありえないこと」が、アイルランドらしい話になってきます。
「昼夜放牧に出ていて『競馬場に行くから連れてきてくれ』と言われたその馬が、その日のG1(2009年5月の愛1000ギニー)を勝っちゃうんですよ。レース当日に15─15をやってから競馬場に送り出して、G1を勝ったこともありました。福島(引用者注:天栄ホースパーク)での経験と照らし合わせて実感したのは、馬にとっては自然に近い状態にいるのがいちばんいい、ということですね」
「日本の厩舎制度だと、アイルランドを再現するのは難しい」とされていたように、日本ではできないことです。
■2018/10/27 海外の調教師は儲からない…金持ちの道楽で遺産食い潰しておしまい
また、欧州初の日本人調教師であるアイルランドの児玉敬さんの話。ただ、資金がなくなって調教師を辞めて、セリ会社・ゴフスの日本人代理人をやっていた時期の話です。(Enjoy Ruffian 2009年7月号馬恋慕〈106〉河村清明より)
児玉さんがライセンスを取得したのは2000年。日本では「調教師=生活安泰」の印象が強いものの、海外はそうではなく、3シーズンで資金切れ。「調教師のライセンスを持ってる人が、アイルランドには2000人、3000人といるんですよ。けど、調教業だけで生計を立てられるのはほんの数人」とのことです。
児玉さんの同期の12人は、カー・ディーラーの息子など、みんなお金持ちでした。逆に言うと、そうじゃないと調教師をできないんですね。「親から譲り受けた財産があって、それがなくなったら辞めるんだって言ってましたね。実際、食いつぶして終わっちゃうんですよ」とのことでした。
一方、「専業で食べていける人は、ほぼオーナー専属」となっています。「厩舎の経費はオーナーが出して、調教師は給料で、というパターンですね。でなければ、イギリス、アイルランドで厩舎経営を続けるのは難しい」といいます。
■2020/12/19 当歳セールが盛んな日本は異常…など海外競馬との違い
Enjoy Ruffian 2011年11月号 Bell The Horseで、岡田紘和さんはアメリカ・ヨーロッパ・オセアニアの競馬と日本競馬との相違点として、以下のようなところを挙げていました。
・外国では他のギャンブルとの兼ね合いと馬券購入者への情報提供が日本ほど多くないために、馬券の売上額が低く、そのためにレース賞金が安い。
・外国では当歳セールよりも1歳セールの方が活発で平均価格も高いこと。賞金の裏付けがないために、1歳馬よりもリスクの高い当歳馬を買うためにお金を出す人が少ないという合理的な理由。
・繁殖牝馬セールは日本以上に大規模で取引が活発。日本の馬主登録の経済基準が世界一高く馬主数が少ないために、繁殖牝馬を持とうとする人も少ないから。
・原則自由競争の業種なので、外国の調教師は管理頭数に制限を受けずに競争が激しく独立が難しいため、雇われ調教師や施設をスポンサーから提供してもらっている調教師が多い。
・調教師の馬の所有を認めている国が多い。
・外国の競馬メディアは競馬主催者や関係者に批判的な記事も多い。